沸騰して妖精があふれだす

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IHに置かれたフライパンが湯を沸かしている。ガスでないもどかしさに、単身赴任の男は苛立っている。

会社があてがってくれた寮であるからして、文句のひとつも言うまい。男はだまって、湯が沸き立つのを待っている。

中心から、水が泡立つ。泡立つとともに、そのひとつひとつの泡が個性を帯びてくる。

そして、楽しげにはじけあう。
そして、語りだす。
そして、軽やかに妖精として歌う。

やぁ、今日も歯周病が気になるのか。

うるさい、余計なお世話だ。

やぁ、子供は電話をしてくるなと言ったんだろう。

うるさい、余計なお世話だ。

やぁ、でもまぁお疲れさまでした。

うるさい、余計なお世話だ。

やぁ、やぁ、やぁ、

うるさい、でもまぁもう少しだけこのまま。
もう少しだけこのまま。
その他
公開:20/09/23 23:27

きろひの、えう

ぼそぼそと創作話を書いています。

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