風奏鬼(ふうそうき)

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宿を出ようとして女将に止められた。今日は風が強いので風奏鬼が出ると言う。風奏鬼というのは風を爪弾き音を奏でる鬼のことだ。
「今日一日外に出ないほうがいいですよ」
おかしなことを。風奏鬼は名こそ恐ろしげだが、ただ風を鳴らすだけで人に害を与えるなど聞いたこともない。構わず外に出た。
良い天気だった。確かに風は強く、びゅうびゅうと吹いている。そのなかに、ビィイイン、ビィイインとなにかをはじく音が響く。見上げた山の緑は美しいが、残念なことに所々細く崩れた跡があった。この辺りでなにかあったかな、そんなことを考えていると強い風が吹き抜け、右腕がかっと熱くなった。
シャツが破れ血が流れている…。

宿に帰って女将に傷の手当てをしてもらった。
「このくらいですんで、運が良かったですよ」
女将が崩れた山肌に目をやった。
聞けば今の風奏鬼はまだ下手くそで、よく風を弾き損ねては下界の物を引っ掻くそうである。
ファンタジー
公開:20/09/23 21:27
昨日思いついた鬼

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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