5月のポジティブ

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5月の夫はいつもごきげんで、口笛や鼻唄を呼吸のように繰り返している。だから私は夫が外に出ていかないように、首輪をつけて居間の柱や庭の木に繋ぐようにしている。5月の庭はとても気持ちがいいから夫から不満の訴えはない。
「パパがかわいそう」
優しい娘は夫の喉元をさすりながらそんなことを言う。
「夏までは我慢よ」
私は娘を説得しながらやはり気持ちはつらかった。私だって夫がかわいい。できれば野山や街に放してあげたい。でも夫はそれで何度も警察の世話になっている。これ以上世間の皆さまに迷惑をかけないために、刑務所に入らないために、心を鬼にして夫を繋いでおくべきなのだ。
夫は度を超したポジティブで、刑務所を遠足だと思っているから、また平気で罪を犯すだろう。歌が好きで血管にもメロディが流れている夫。外に出れば誰かの口笛や鼻唄を横から奪ってしまう。そうなればまた、歌の上塗り罪の現行犯だ。
早く終われ。爽やか。
公開:20/05/01 12:42

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