真夫婦の鮮度

近所の商店街を夫と散歩していたらすっぴん丸という魚屋がオープンしていた。毎日通るのに気がつかなかった。
「君は視野が狭いからなぁ」
と夫は笑う。
確かに私は雪山のようにメイクが深くて視野が狭い。会社で隣り合う同僚が大嫌いでファンデーションの厚みを日々増していったからだ。目の周りは除雪してあるけれど、横はほぼ見えない。
夫は私のメイクを「立山黒部アルペンルートか」と最初は笑ったけれど今はかわいいと言ってくれる。夫の愛こそ立山黒部アルペンルートだと私は思う。
すっぴん丸の魚は見たことのないものばかりなのに、店主に聞くとどれも真アジだと言う。
「すっぴんだからね」
鮮度も抜群。感激した私たち夫婦はすっぴんで生きることにした。
皆が初めましてと言う。同僚が優しく接してくれるし、知らない男に口説かれもした。
「妻には内緒だよ」
「私も夫には内緒」
ふたりですっぴん丸に行くと、店主が「毎度」と言った。