つり革ゾウ

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電車に乗っていると、白髪頭の爺さんが悪態をついていた。

「最近のつり革は偽物ばかりじゃ!」
えっ、つり革に偽物も本物もないと思うけど?
ぼくは気になったので訊ねてみた。
「昔のつり革と今のつり革に、何か違いがあるんですか?」
爺さんはぼくの顔をきっと睨んだあと、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの笑顔になった。
「いいかね、わしの若い頃の電車にはちゃーんとツリカワゾウから取った質の良い象牙を使用していたもんじゃ」
「ツリカワ、ゾウ?」
少し頭のおかしな老人なのかも知れないぞ。
そうも思ったが、爺さんはぼくの手を握り「一緒に次の駅で降りるんじゃ」と言ってきかなかった。

仕方なしに電車を降り、爺さんに連れられて改札を抜けると、何と小柄なゾウがぼくらに近寄ってきた。
「これがツリカワゾウじゃ」
爺さんが手綱を引っ張ると、丸い輪っかの牙を持つゾウは「パオーーン!」と嬉しそうにひと声鳴いた──。
ファンタジー
公開:20/02/23 21:02
更新:20/07/01 13:27
8月12日「世界ゾウの日」 ショートショートカレンダー

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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