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息子一家が帰省し、部屋割りの結果、私が離れ座敷で寝る事となった。
妻に蚊遣器の場所を聞くと、今は余っているものが無いと言うので、箪笥から古い蚊帳を取り出して部屋に吊るした。
この蚊帳は、まだ自分が子供の頃にこの家で使っていたもので、四面にはそれぞれ継ぎ足しの跡が見える。日頃倹約を心掛けていた母が、襤褸になった家族の夏着を利用したのだ。
そのせいか、こうして横になり目を瞑ると、麻の服を着たかつての自分の家族に、四方から見下ろされているような気持ちになる。

まだ若い父と母、そして学帽を被った二人の兄。四人は私が寝付くのを確認したあと、何かを探すように辺りを見回しては手を広げて…。

「ねえ、あの蚊帳で大丈夫だった?よく眠れた?」
「ああ、大丈夫だよ。ぐっすりだ」
妻が朝食を準備している横で、仏壇に手を合わせていると、耳元で蚊が飛ぶ音がした。
だがそれもすぐに、パチンと手を叩く音と共に消えた。
ファンタジー
公開:20/04/01 23:05
更新:20/04/07 20:59
〇〇家族

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