眉間の部屋

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「スクラップアンドビルドよ」
母は家族会議でそう宣言した。
老朽化した父に再開発の話が持ち上がったのは去年の暮れだ。
娘の私にも地権者として今後について考えてほしいと言う。
「どこを変えたいわけ?」
「全部よ」
「追い出すってこと?」
「それじゃあお父さんに悪いから、エッセンスを残すとか」
「くさいのはイヤ」
「分骨とか」
「まだ生きてる」
「とにかくよく揺れるのよ。優柔不断。もう耐えられないわ」
「耐震補強かぁ」
「手狭だし」
「小柄なだけ」
「とにかく寒い。すべってばかりなのよ」
母の意志は固く、週明けから父の解体工事が始まった。更地になった父は体調を崩したが、母の献身的な看病で春には基礎工事が終わった。
新しく建った父には口がない。内装も別人のように使いやすくなった。私は正直悪くないと思った。ただ父の目が、45階の外壁で寂しそうに月を見ていたから、私は眉間の部屋で暮らすことにした。
公開:20/01/16 16:53
更新:20/01/21 11:26

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