冬至器

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ある焼き物の里の骨董市に行ったときの出来事だ。
さまざまな種類の焼き物が並んでいる中に『幻の冬至器』という名札の付いた白い茶碗が置かれていた。
冬至器? 陶磁器の間違えではないかと思い店主に尋ねてみると
「冬至は一年の中で最も日照時間が短い日ですが、この茶碗は冬至が近づいてくると徐々に黒みを帯び、冬至当日には黒茶碗となる器です。
冬至の日だけ漆黒となることから幻の茶碗とされており、安土桃山時代に織田信長や豊臣秀吉ら為政者も挙って探し求めた逸品とされています。
冬至の日にこの茶碗で抹茶を点てて飲むと、願い事が一つ叶うとされています。実は、徳川家康がこの茶碗で冬至の日に抹茶を飲んだところ、翌年『天下分け目の戦い』と呼ばれる関ヶ原の戦いに勝利したと言い伝えられています」
「これは掘り出し物ですね。相当なお宝でしょ?」
その値段を聞き、高嶺の花ならぬ高値の器とわかり、そそくさとその場を立ち去った。
その他
公開:19/12/27 16:42
焼き物 骨董市 冬至 茶碗 陶磁器 安土桃山時代 織田信長 豊臣秀吉 徳川家康 関ヶ原の戦い

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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