ふん

「もう少し話そうよ」
私のふんは喋る。
まだ世の中には出回っていないが、言葉を話す乳酸菌が発見された。
私の夫は製薬会社に勤める研究者で、今はその乳酸菌で体内医サプリを開発中だ。
内視鏡のかわりに言葉を話す乳酸菌が体内を診て、ふんとして排出されたあと、乳酸菌自身が医師として、患者に直接説明するというもの。
私は毎週のように新しい体内医サプリを飲んでは、その乳酸菌とトイレで話している。
「ミキさんは腸綺麗」
「やだぁ」
「なんか運命感じちゃった」
「からかわないでよ」
最近夫は帰りが遅く、私の話し相手はもっぱら乳酸菌だ。
口説いてくる菌もいる。
「僕は本気だよ」
便器の中から私を見つめていると言うけれど、私にはふんにしか見えないし、恋心なんてうまれるわけもなくて、じゃあねと水で流すだけ。
「ミキさぁーん」
じょぼじょぼじょぼ。
せめてイケメンならと思うけれど、乳酸菌は顔じゃないし。
ふん。