ほくろ

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「ソノホクロ、クレ」
バングラデシュ辺りから来たというその青年は、私を選んで声をかけてきた。
朝の錦糸町駅前。歩道橋の上にスズメのように並んだ高齢者に混じって私も立っていた。
普段ならハローワークに行く時間だけど、楽に稼げるスポットがあるからとここへやって来た。
正直やばい雰囲気だ。すぐに帰ろうとしたが、捕まってしまった。
「オネ、ガイデス」
確かに私のアゴには大きなホクロがある。だからといって、じゃあどうぞ、とはいかないだろう。
「センド、ダイジ」
青年は美容外科の医師で、世界中のホクロを集めているのだという。
こんなものを集めてどうするのかと聞いても、青年医師は笑みを浮かべるだけだ。
即金で5000ドルを受け取った。
手術はカラオケボックスの中。青年医師の妻だという女が、優しい笑顔で麻酔を打った。
手術は簡単に終わり、私はカラオケボックスにポロリと残された。
体はどこへ行ったのだろう。
公開:19/07/19 14:14
更新:20/02/28 11:16

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