スナック「野晒し」

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いきつけのスナック「野晒し」。
家庭的かつ淫猥、情緒的な中にも時折即物的な真顔を垣間見せるような、そんなアンビバレントな棺桶に片足を突っ込んだ悦子ママが切り盛りするこの粋な店。
今日の会計は28万円であった。
「はっ!?」
「下処理に手間がかかんのよ、たけのこ」
確かに、今日はなぜか頼んでもないたけのこの煮物がでた。
「なめんじゃないよ!」
「はぁ…」
「人生の機微も、たけのこの機微も知らない若造が!」
「えぇ〜…」
「アクがすごいのよ!」
「……」
「馬鹿野郎!」
怖いから、ちょうどポッケに入ってた28万円を払って急いで店を後にした。
皆が出てドアを閉めた直後、背後でずどどどど、と月並みな音をたててスナックの入った雑居ビルは地中に沈んでいき、やがて残された殺伐とした空き地の真ん中から「売地」と書かれた立て看板がにょっきりと生えてきた。
「そこはたけのこやろ…」
とは特に誰も言わなかった。
青春
公開:19/02/22 16:54

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