親父ロック

ついにうちの父がロックになった。
もともと頑固な性格の持ち主だったが、定年退職してからはますます頑固になり、とうとうロック病を発症してしまったのだ。

ロック病の初期症状は、まず揉み上げが濃くなる事から始まる。それから徐々に口のまわりが硬化し始め、極端に口数が減る。
だがこの段階なら、お酒や煙草を控えて運動などをすれば元に戻るらしい。
さっそくあたしと母は症状を改善させるべく、
｢煙草は控えたほうがいいわよ」
とか、
｢少し運動なさったら⋯⋯」
などと口やかましく注意したのだが、
｢オレニ カマウナ！」
と父は一喝し、一日じゅうＴＶの前に座って煙草を吹かすもんだから、症状はさらに悪化した。

そして現在では、胡座をかいた状態でまったく身動きの取れぬ、一塊の岩と化してしまった。
｢ふう⋯⋯」
と深いため息をついたかと思うと、母は岩になった父を担ぎ上げ、台所の角にある漬物樽の上に乗せた──。