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―M先生は毎朝土手を走ってる
 当時、僕は自転車部設立にむけて職員室へ出入りしていて、教育実習のM先生とHさんとが親しかったと知った。Hさんは、僕に自転車を教えてくれた人で、五年前、交通事故に遭い、リハビリの甲斐なく亡くなった。
―M先生は、鉄の輪っかを散歩させてる
「学校は安全を保障できない」
 創部が白紙になって、土手でサボっていた僕のところへ、M先生が歩いてきた。大きな丸いケースを抱えて…
「残念だったね」「はい」そして自然と、Hさんの思い出話になった。
「Hは義足でも自転車を諦めなかった。私はHの望みを叶えたかった。Hの足でHの自転車を…」
 M先生はケースを開けた。そこには、赤錆塗れの、輪と棒があった。
「Hの自転車の前輪のリムとHの義足のシャフトなの」
―鉄の輪っかを散歩させている
 ○/ か…
「明日から、あなたが走らせて」
 M先生はケースを僕に託して、夕日に駆けていった。
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公開:19/01/08 10:08
更新:19/01/08 14:50

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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