幻視力エンジン

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きゅらきゅらと無限軌道の耳触りな音を立て、陸の海を疾駆していた鋼鉄の船が突然停止した。

「船長、エンジンの出力が落ちています」
「働かせ過ぎたな」
ここ1カ月のあいだ走り続けたせいで、幻視力エンジンもすでに限界に来ていたのだろう。あと1日だけ保てばいい。あと1日あれば、あの「影」に追いつく事ができるというのに⋯⋯。
「何か手はないんですか!?」
船長は甲板の寝椅子から起き上がると、焜炉でお湯を沸かし、船の調子が悪くなった時の特効薬を作った。
「こいつをぶっかけな」
操舵輪の真下には、左にundo、右にodnuと刻印されたツインエンジンがある。あたしは外装をレンチで外し、剥き出しになった幻動機の溝に、特製のブラックコーヒーを注ぎ込んだ。
船はみるみる元気になり、再びきゅらきゅらと無限起動の音を立てて動き出した。
エンジンの仕組みは未だに謎だが、まあいい。
今はただ、その影が追いたい──。
SF
公開:18/12/23 16:34
その影が追いたい undoodnu祭り

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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