無重力オフィス

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良い仕事を行うためには、拘束からの解放こそが必要だ。そんな方針のもと、社はオフィス改革に乗りだした。電子化促進にフリーアドレス制の導入。その動きは加速していき、ついには重力からの解放までもが実現した。すなわち、オフィスが無重力になったのだ。
慣れるまでは苦労したが、その効果は抜群だった。かく言うおれも、宙に浮かんで仕事をするので自然と肩の力が抜け、斬新な企画を次々生みだせるようになった。天井まで余すことなく空間を使え、ノビノビできたのも大きかった。筋力維持の運動が健康を促し、頭も冴えた。
だが、仕事がうまくいくにつれ、悩みが生じた。妻の小言が次第に気になるようになってきたのだ。
床の靴下を片づけろ。洗濯物をきちんと畳め。食器に洗い残しがある……。
目に見えないプレッシャーは、まるで重力のようである。
最近のおれは帰宅すると、こんなことをよく思う。
――ああ、早く会社に行って解き放たれたい。
その他
公開:18/12/17 10:09
日替わりオフィス 働きたい会社コンテスト

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。15年からは自らが発起人となり立ちあがった「ショートショート大賞」において審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、新世代ショートショートの旗手として幅広く活動している。著書に代表作『海色の壜』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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