開眼する曲率

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 川向こうの斜面を緩やかに下る国道は赤い橋へ至る。私はその橋へ向かう堤防道路を自転車で走り、橋の手前で堤防を降りる。その分岐の途中に、国道と、赤い橋と、堤防道路との曲率が、ぴったりと重なる地点がある。毎朝、それを観測するのが私の悦びだった。
 ある朝、その観測地点にミミズが死んでいた。私は前のめりに転倒した。その刹那、そのミミズの屈曲が、堤防と国道との曲率に一致し、かつ、私の瞼の縁もまた、それらに一致していたことを発見していた。
 退院後、自転車前輪の歪みも同じ曲率だと知ると、私は座敷に籠もり、手鏡に額の縫合痕を映してみた。それは当然、瞼などと同じ曲率で、それはもう「瞼」だった。私は、第三の瞼を開いた。
 そこからは、糸ミミズのようなものがポロポロと落ちてきた。それらは、あの曲率にくねると、次々と畳の目に消えていった。
 私は、新たな器官を得た悦びに涙を流しながら、戸外へ駆け出していた。
その他
公開:19/01/29 14:11
更新:19/01/29 14:15

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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