福引景品交換所

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 祭りのはねた境内の入り口に、一つだけ明るいテントがあった。男の子が一人で店番をしている。
「おじさん。番号札見せて」
「さあ、どこにやったかな」
「お腹のところにはさんであるじゃないか」
 広げてみると三十七だった。
「やったね。自転車だよ。おじさん」
 男の子が自転車の準備をしている間に、男は傍らのパイプ椅子に腰をおろした。ひどく疲れていた。

 机の上には、景品がもう一つ残っている。
「あれは何番だい」
男は男の子に尋ねた。
「六十七番。三等だよ。でも誰も取りに来ないや。なんでだろ。もったいないな」
「世の中には、いろんな考えの人がいるんだよ」
「へんなの」
 少年は、炊飯ジャーの蓋を軽く叩いた。
 その頃、社を焼き尽くした炎は、拝殿の裏側に飛び火しつつあった。
 男は、いつしか眠ってしまった少年の頭を撫でながら、この炊飯ジャーを取りに女がくるかもしれないと考えて、静かに笑っていた。
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公開:18/07/25 13:16

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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