幸福は箱の中

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人によく、写真を撮るのが上手いと言われた。彼女の写真に関しては、特に。
彼女は私にとって完璧な被写体だった。表情も、仕草のひとつひとつさえも、ファインダーの中に閉じ込めてしまいたいと願うほどに魅力的で、私を惑わした。
でも、それも今日で終わりだ。
「結婚おめでとう」
「ありがとう」
言葉を交わしたとき彼女の見せた表情は、見たことがないほど美しかった。カメラを向けようと思い、やめた。彼女はもう、私の扱う箱の中では息ができないとわかっていた。
彼女は不思議そうに言う。
「撮らないの?」
私は苦笑し、首を振った。
カメラを持つものが被写体を愛さなければ、いい写真は撮れない。
知らない男に寄り添う彼女は、愛したあの子ではなくなっていた。
いつまでも私だけの彼女でいて欲しかった、なんて傲慢だ。シャッターを切るときにさようなら、と小さく呟いた声は、どうかこれから幸福になるあの子まで届いていないといい。
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公開:18/07/12 01:10
更新:18/07/12 10:38
私が愛した彼女へ捧ぐ

ハナヅキアキ

ショートショートも写真も初心者。
緩やかな日常を生きています。
生まれ変わったらジンベエザメになりたい。
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