鞄の男

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全てがいやになり、家にも帰りたくなかった。深夜を過ぎた街なかの大きな川の橋の上。欄干に肘をかけ、街灯が映るさざめく水面をぼんやりと眺めていた。
「おや、あなた、どうしました?」
穏やかな声がしてちらっとそちらを見ると胡散臭そうな男が大きな鞄を持って立っていた。
「どうもしませんよ」
俺はぶっきら棒に呟いた。
「ああ、上司の失敗の尻拭いをさせられたんですね。お気の毒に」
男はずばり原因を言い当てた。ますます気味が悪くなった。
「あなた、今夜はもう帰ったほうがいいですよ」
男は少し間隔を空けて俺の横に立つと鞄を置き、同じように川を眺め始めた。余計なお世話だ。
「あなたの上司、明日の朝の通勤途中、階段で転倒して骨折します。しばらく入院するから忙しくなりますよ」
「まさか」
「その間に成果を出しなさいよ。これまで握りつぶされていた結果を全部」
男は薄く笑うと、重い鞄を抱え上げ闇へと消えていった。
ファンタジー
公開:18/05/12 17:32

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