靴の縄張り

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彼女の家で妙な光景に出くわした。部屋の至るところに靴が置いてあったのだ。
「何かのおまじない……?」
尋ねると、彼女は言った。
「靴がケンカしないように離してるの。靴にはそれぞれ縄張りがあって。自分のところに入ってきたら嫌がるから、先に領分を割り振ってあげてるわけ」
よく分からないが、靴をたくさん持っている、女子ならではの話なのかなとぼんやり思う。おれはひとつスニーカーを持つのみで、靴にはてんで無頓着だ。女子も大変だなぁと感心していた。
そのときだ。慌てたような足音を立てて誰かが部屋に入ってきた。いや、それは人ではなくおれの靴だった。靴はこちらに駆けてきて、怯えるように背後に回った。あとから追いかけてきたのは彼女のヒールだ。
「あー、ごめん、うちの子が」
彼女は言った。
「侵入者だって噛みついたのね」
ボロボロになったおれの靴は、震えながら、くぅん、と鳴いた。
その他
公開:18/05/11 15:35

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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