影絵の鳩

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ある月夜、縁側の障子を使って猫を相手に遊んでいた。懐中電灯の光の中、ぼくが生みだす影絵に猫は興味津々だ。
と、親指同士を絡ませて両手を広げ、鳩の形を作ったとき。急にバサバサッと音がして、鳩の影絵がひとり勝手に羽ばたいたから驚いた。影はそのまま障子の中に着地して、クルックゥと鳴いて歩きはじめた。
障子に再び手を翳すと、変わらず手の影が現れた。恐る恐る、また鳩の形を作ってみる。すると今度も羽ばたいて、映る影は二つに増えた。
ぼくはなんだか楽しくなって、何度も鳩を生みだした。まるで自分が手品師になったような気分になる。
ところが突然、猫が動いた。興奮し、障子を引っ掻き破いたのだ。
その瞬間、鳩たちは一気に解き放たれて裂け目から障子の外へと飛びだした。黒い群れが羽音を立てて窓の向こうに逃げていく。
ぼくは、なす術なく見送った。
黄金色の月を優雅に横切るその姿は、長く目に残った。
ファンタジー
公開:18/05/07 14:31

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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