三津の渡し 2

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市道高浜2号線は三津と港山を結ぶ80mの海の公道だ。
俺はそこを往復する渡船の船長を長年やってる。
呼び鈴が鳴ったので対岸に向かうと見知らぬ男女がいた。
着いても乗ろうとしないので俺は船を降りて二人に声をかけようとした。
「いってぇ!」
体が何かにぶち当たった。
掌で触るとそれは紛れもない透明な壁だった。
ちきしょう!
俺は船からハンマーを持ち出し目一杯その壁をぶっ叩いてやった。
見えない壁は音もなくいとも簡単に崩れた。
あれ?さっきまでいたはずの男女がいない。
おいおい、狐にでもつままれたか。
ガラン。
近くの湊三嶋神社の鈴が梅雨晴れの空に一つ響いた。

『今日あった乗用車が海に転落して男女が奇跡的に助かったという話ですが、二人は確かに、お爺ちゃん人魚が現れてフロントガラスを金槌で割り・・』
「なんじゃいそれ」
訳の分からぬニュースを見ながら俺は仕事終わりの缶ビールをぐびと飲んだ。
ファンタジー
公開:18/06/20 10:00
更新:18/06/30 18:28

杉野圭志

元・松山帖句です。

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