しりとり食堂

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『※店内はしりとりのみです』
 
商店街の外れにある、定食屋らしき店に入ろうとしたときだ。入り口のガラス戸に、変な張り紙がしてあった。
妙だなとは思ったがあまり気に留めず、俺は引き戸を引いた。
「らっしゃっせー!」
店員の元気な声が響くと同時、手前の客が立ち上がる。
「千円ね。ごちそうさま」
「まいど!」
会計を終えた客は俺の脇をすり抜けて、音を立てずに出ていった。
千円……? まいど……?
いや、まさか。
戸惑ったまま立ち尽くす俺に「どうぞ」と女性店員が声をかけてくる。俺は案内通り腰を下ろしつつ、店員に事情を聞こうと試みた。
「あの、すみません」
しかし店員はまるで聞こえないかのように、俺の横を通り過ぎる。
俺は仕方なしにメニューへ目を向けた。けれど。
「『ぞ』って雑炊しかないじゃん……」
あ。
迂闊にもしりとりを終わらせた俺は注文ができなくなり、おずおずとその店を後にするしかなかった。
その他
公開:18/06/02 22:12
更新:18/06/14 20:34
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ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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