浴衣の朝顔

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「とっておきの浴衣をあげる。おばあちゃんが着てたやつ」
そう言ってお母さんが取りだしたのは模様のない綿の白い浴衣だった。戸惑う私に、さらに朝顔の種を渡してつづけた。
「これ、撒いてみて」
意味不明ながらもそれを受け取り、私は部屋で浴衣に種を撒いたのだった。
芽のような模様が現れたのは数日後のことだった。それは伸び、葉っぱを茂らせ、やがて立派な蕾をつけた。夏が来るころ、真っ白だったはずの浴衣は青い花の咲き乱れる美しいものへと変わっていた。
彼とのお祭りデートの夜、私は鏡に映った浴衣姿の自分を見つめた。夜になっても花は萎まず満開だ。
玄関先で、見送りに出てきたお母さんが言った。
「うん、よく似合ってる。あとは万事、浴衣に委ねて。朝顔がツルを伸ばして絡みついたら、彼で間違いないって合図だから」
お母さんは言葉を継ぐ。
「浴衣の取り持つ縁はずっとつづくの。おばあちゃんとお母さんが、その保証人ね」
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公開:18/05/28 12:40

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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