彼の猫と、彼女の海

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彼は猫を飼い、彼女は海を飼っていた。二人は離れて暮らしていたので時々近況をやり取りした。

猫は元気?
うん。鳥や蜥蜴をくわえてくるよ、海はどう?
海も元気。今日は銀色の船を呑み込んだの。
猫はなぉなぉってよく鳴くよ。
海だってざぅざぅって鳴くわ。
猫の体はよく波打ってる。
海なんかいつも波打ってるわ。

猫は随分大きくなったよ。食べすぎかも知れない。
海も大きくなったわ。海岸線をいくつも食べちゃった。
猫は今夜は静かだ。
海も静かだわ。眠っているみたい。

猫が最近弱ってるんだ。
海も昔より元気が無くなったわ。

彼の猫は一度だけ振り返ると家を出て行った。

猫は死ぬ前に姿を消すんだよ。
海はどうなるのかしら。

やがてその時が来た。
海は猫のように跳ね上がると、蜜柑の皮が剥ける形で地球の重力を引き離した。そして粉々の滴となって、ひとつひとつに地球を映しながらゆっくり遠くへ消えていった。
その他
公開:18/05/26 21:49
更新:18/05/26 21:52

北澤奇実

『名作絵画ショートショートコンテスト』入選に『果て』を選んでいただき、ありがとうございます。今回も「ちゃんと書けただろうか』という思いがありましたので嬉しく思います。
『北オーストリアの農家』に至るまでに丸々一ヶ月半を費やしました。道中『壁』と『闇 1938』を書いて、じわじわと円を描く様に絵に近づいて行きました。最初に絵から感じた不思議な感じを一旦論理化して、「森を舞台にしたメルヒェンっぽい物を書きたい」と思い、お話のギミックとして再構成しました。
前二作の重心が低めだったので、『果て』は地に足が着いていない感じを目指しました。できる事なら、もっとスッと立ち上がる様に書く事が今後の課題です。

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